ある日の海2 「春嵐」
冬の西南伊豆地方の季節風は、恐ろしいほど強い。
南伊豆町にある入間の千畳敷へ出かけたときの想い出だ。
1月の初め、カメラ片手の小説の取材旅行だった。
岬へと続く遊歩道の途上、数十メートルの標高差を持つ坂道の中ほどでのこと、いきなりコップから水を浴びせられたように、顔に水しぶきがかかった。
あわてて、回りを見渡したが、むろん、誰もいない。
しばらく呆然と突っ立っていた僕の、今度は頭から水しぶきが降りかかった。
なんと、海面から巻き上げられた海水が強風に乗って、海抜十数メートルの位置にいた僕の身体を襲ったのである。
今日の一枚をご覧頂ければ、僕の話が誇張でないことがおわかりいただけると思う。
あまり写りはよくないが、遊歩道の出発地点付近で撮影した一枚である。
写真の中央付近、白い靄のように写っているのが、海面から巻き上げられた海水である。
左の防波堤やボートの大きさから推察しても、十数メートルの高さに達していることがわかる。
このような自然現象を何と呼ぶのかは知らない。
だが、強風にいきなり襲われた驚きと頬に当たった潮水の感触は、今も鮮やかに記憶に残っている。