¡Ole! Flamenca! 2「栗原武啓さん」
- 2013/08/31 22:16
- カテゴリー:フラメンコほかライブなど
素晴らしいフラメンコ・アーティストをご紹介する¡Ole! Flamenca!
第二回は、ギタリストの栗原武啓さんである。
栗原武啓さんは、2008年に日本フラメンコ協会新人公演のギター部門で奨励賞に輝いた実力派ギタリストである。
フラメンコ協会の奨励賞は、島崎リノさんについてのエントリーでも書いたが、新人ではなく、いま旬のフラメンコ・アーティストに与えられる輝かしい栄冠なのである。
残念なことに、僕は、栗原さんのフラメンコのステージを生で聞く機会に恵まれていない。
そこで、今日は栗原さんの別の一面である「津軽三味線」奏者としての横顔を紹介したい。
先週の28日、水曜日の晩、仕事を終えた僕はワクワクして東海道線に乗った。
これから向かう辻堂のスペインバル『ストーン』での時間が、とても楽しみだったからだ。
フラメンコギタリストとして、多くのステージで知られる栗原武啓さんが、津軽三味線のライブを開かれるのである。
しかも、民謡歌手の涌井晴美さんとのステージだというのだ。
正直な話、僕は邦楽には滅法暗い。
ジャズピアニストの菊池雅章のファンだったこともあり、山本邦山の尺八を全面的にフィーチャーした『銀界』 は、中学生の頃からの愛聴盤である。
邦楽器によるジャズの傑作と言えるこのCDは、今でも年に何回かは聴く。
そんな関心から、初代高橋竹山のCDは持っているが、津軽三味線を知っているとは言えない。
だが、津軽地方の景色に惹かれ、何度も訪ねている僕としては、津軽三味線という楽器には大いに興味があった。
『津軽じょんがら節』から始まったステージは、驚きの一語だった。
栗原さんと共演の澤田義春さんの二丁の三味線が生み出す緊張感ある音色には、本当に鳥肌が立った。
遠い昔に彷徨った十三湖の葦原が、瞼の裏に浮かび、日本海から吹き付ける冷たい潮風が、頬を駆け抜けるような気がした。
十三湖の茫漠とした日本らしい景色を思い浮かべたのとは裏腹だが、激しく叩き弾く奏法から生み出される音色は、僕が抱いていた邦楽器のイメージとは遠い一面もあった。
むしろ、琵琶の仲間のウードなどに近い激しくリズミカルな音色で、
新内や小唄などの三味線とは一線を画すものだった。
ジャズやロックなど、様々な音楽とコラボできる可能性を強く感じた。
栗原さんはフラメンコギターは13歳から習い始めたとのことだが、津軽三味線は、すでに6歳にして弾き始めていたそうである。
フラメンコギターと津軽三味線、どちらをとっても超一流の演奏を見せてくれる。
そんなミュージシャンは、彼一人だろう。
ご本人は「僕は異端児なんです」と、淡々と笑っていた。
写真は、ステージが跳ねた後、残っていたファンたちの求めに応じて、フラメンコの『ブレリア』を弾いて下さっているところである。
これがまた、三味線に負けず劣らず、素晴らしい。
アタックが力強く、それでいながら繊細この上ない。
栗原さんのフラメンコのステージに出かける日が待ち遠しい。
二曲目で、民謡歌手の涌井晴美さんが登場。
涌井さんの歌声は、明るく楽しい『秋田音頭』から始まった。
栗原さんの三味線と澤田さんの締太鼓に合わせて、のびやかな歌声で客席を魅了した。
信じられぬほど張りのある、それでいてどこまでも美しい歌声がステージを満たした。
小柄で細身なスタイルからはとても想像できない。
音韻のコントロールも驚くほど巧みで、大変な力量をお持ちであることを痛感した。
哀調を帯びた『秋田荷方節』や、『津軽よされ節』は、さらに素晴らしかった。
民謡のステージを、初めて聞いたが、こんなにも心に染み入るものだとは知らなかった。
目を開いて下さった涌井さんには、心から感謝である。
当夜の涌井さんは、黒地に花柄の和装姿が、とてもよくお似合いだったが、ステージが跳ねた後のオフの姿しかお撮りできず、とても残念である。
男性陣も黒紋付きに仙台平の袴スタイルがバッチリだったのでちょっと悔しい。
ステージ間近で、素晴らしい演奏を堪能できたが、聴くことに熱中し過ぎてカメラを持っていることなど忘れていた。
三味線と締太鼓を演奏してくれた澤田義春さんは、とてもお若い。
ステージでは堂々たる姿だが、ステージが終わって日頃の姿に戻ると、こころ優しい好青年である。
28日のステージに出かけて本当によかった。
皆様もぜひ、津軽三味線と民謡のすばらしさを体験して頂きたいものである。